横浜港北メンタルクリニックでの診療の中心はストレス障害とうつ病になります。横浜港北メンタルクリニックの受診者の90%以上がストレス障害が受診になります。
しかしストレス障害とうつ病の違いはあまり知られていません。実際に「うつ病」と「ストレス障害」の違いについて正確に判断・説明出来る人は少ないと思います。
精神科の専門医でも判断に迷うこともしばしばあり、誤った判断をする場合が少なくありません。今回は「うつ病」と「ストレス障害」について、発症から識別点まで掲載しました。
※掲載している症例は一般例を掲載しています。発症・症状等に関しては個人差がありますので、気になる方はご自分で判断なさらずに医療機関の受診をおすすめします。
「うつ病」と「ストレス障害」発症のきっかけ
うつ病
多くのうつ病患者の場合、うつ病の原因が心理要因であると自己判断している場合が多いです。そのため業務上の負担や人間関係等生活上のストレスと結びつけて自己申告する事が大半になります。
しかし内因性うつ病では特にきっかけ無く発病する事が一般的になります。季節性うつ病という言葉があるように、うつ病の場合は同じ季節(時期)に発病する傾向が強いです。
※荷下ろしうつ病、産後うつ病等の病名がありますが、これらの要因がうつ病発症のきっかけとなる事は否定的だと思われます。最近ではこれらの用語はほとんど死語となっています。
ストレス障害
ストレス障害の発症は「ハイリスクストレッサー」の場合には、生命の存続に関わるようなストレスであるため、明らかなきっかけが存在します。(交通事故・大規模災害・犯罪との遭遇等)
それに対して「ローリスクストレッサー」は日常生活上のストレスであり、慢性的・持続的に負荷されることが特徴です。
ストレスへの耐性は、人によって異なります。その耐性をここではコップの大きさに例えてみると、人それぞれでコップの大きさは異なります。
そのコップにストレッサーが加わるたびに水が一滴注がれるとするとストレスは一方的に溜まるわけではないため、コップの中の水は、健康状態では自然に排出され、増減はあるもののこぼれることはありません。
ところが、水滴が大きくなったり(強いストレス)、急速に垂れてきたり(頻回なストレス)すると、コップの中の水は増えてしまい、そして最後の一滴(トリッガー)により、コップの水はあふれてしまうことになります。
つまりストレス障害の症状の出現には「ブレーキングポイント」があるということでこのブレーキングポイントは患者も明らかに自覚している場合が多いです。
例えば「上司からの厳しい叱責、人格否定」「業務上の大きな失敗」等、ストレス耐性は人により大きな差異がありますが、一般的に健康者が発病する場合には「さもありなん」と思えるような負荷が掛かった場合に限られます。
「うつ病」と「ストレス障害」発症の様式
うつ病
うつ病は基本的には一相性の波であり基本的には徐々に病状は進行する事が多いです。
「そういえば3カ月前頃から睡眠が浅くなり、2ヶ月前頃からは仕事のミスが増えてきた 今週に入って出勤がつらくなってきた」等のように症状が一枚一枚重なって病状が悪化したように自覚することになります。
ただし、うつ病の場合急速に悪化するタイプや徐々に長期間かけて進行するような特殊ケースがあります。
前者では1-2週間で病状が急速に進行し「底」を迎えることもあり、後者は1年間程度の長期にわたり進行するようなケースです。
この場合うつ病であるのか、性格要因であるのか判断に苦慮する場合もあります。
ストレス障害
ストレス障害が発症の場合、例えて言えば「脳の疲労が極限点に達した状態」との表現が適切です。
大脳も人の臓器の一部であり、筋肉・肝臓・心臓等の臓器と同様に限界があります。多くの臓器では、その疲労度は様々な身体的サインを伴い自覚出来ます。
例えば筋肉が疲労した場合では腕立て伏せをしている場合に、20回くらいまではなんなく出来ても、急に力が入らなくなり、きついと感じたらそれからは数回も出来なくなる。しかし、脳の疲労は意外と最後まで自覚することが出来ません。
脳の疲労は急激に、突如感じ取ることになる 懸命にテンションをあげて頑張って仕事をしていると、ある日突然糸が切れたように、脳が通常の働きをしなくなります。
実際ストレス障害で来院された患者の中で「プツンという音が聞こえて頭の中で糸が切れた気がした」と訴えた方もいます。つまりストレス障害の発症様式は、ある日のある時間に突然発症することが特徴的です。
「うつ病」と「ストレス障害」発症後の経過
うつ病
うつ病は基本的には一相性の病相であるため「始まりと終わり」があり、最悪の時期「底」があります。
「底」は一回である事が一般的です。つまり短期間で良くなったり悪化したりする事はありません。少なくとも1週間単位で病状を評価すると、綺麗な弓状線として表が出てきます。
ただし「底」の時点が前倒しになっている場合や病相の最後の方にシフトしているケースもあります。
また一度のうつ病相が直りきらない場合に次のうつ病相が重合する場合もあります。
その場合には「底」が2ポイントになります。うつ病は日内変動があるため朝の不調、夕方の改善という一日の中で波があることが多いです。またうつ病の回復期に病状が日によって大きく変動する場合があります。
患者は調子が良くなると活動的となり無理をしてしまう事が多いです。その場合には疲労の蓄積があり、その回復に数日程度かかるケースが多いです。
ストレス障害
ストレス症状の経過は日により時間により著しく変動する事が特徴です。
その為、患者は発病時期に関しては明瞭に記憶していますが、その後の経過に関しては回顧して経過説明を行う事が困難となります。
うつ病のような日内変動はなく、不規則に変動します。
変動する要因例としては下記になります。
1.回復要因「活動性が強まった場合」「目標設定が出来た場合」「趣味や遊びが出来た場合」「適度の飲酒をした場合」等
2.悪化要因「休日に横になって休んだ場合」「反省や後悔を繰り返した場合」「一段落して気が緩んだ場合」「更なるストレスが加わった場合」等
「うつ病」と「ストレス障害」症状の特徴
うつ病
うつ病の場合10人の患者がいれば10通りの症状があります。病状は患者ごとに大きく差異があります。
ただし、うつ病には3つの共通事項があります。
1.体内時計のズレ
うつ病の場合、概ね体内時計と実時間が6時間程度ずれます。(実時間より6時間程度早い時間を認識している)その結果、うつ病の「日内変動」が認められることになります。
つまり、うつ病では早朝覚醒、起床困難、午前中の気分不良、夕刻以後の気分の好転といった日内変動が特徴的と言われています。
この原因が体内時計のズレにある 朝6時の起床時間は体内時計では深夜0時を認識し、午後6時では正午と認識するための症状です。
2.全身の機能にブレーキがかかる
例えば、筋肉系統にブレーキがかかると「身体が重い・動きが緩慢・疲労しやすい・表情の消失・力が入らない」等の症状につながります。
・脳機能(判断力)にブレーキがかかると、思考を転動(思考の切り替え)させる事が困難となり「同じことばかり考える・優先順位がつけられない・簡単な結論が出せない」等の症状につながります。
・消化器系にブレーキがかかると「食欲がない・喉が渇く・便秘がちとなる」等の症状が出現します。
3.欲動の障害
人には5つの欲動がある事は知られています。つまり「食欲」「性欲」「行動欲」「生命欲」「睡眠欲」です。
これらの欲動は人が生きてゆく上で基本的かつ原始的な行動であり、個人の意思や精神に影響を受けにくいものとされています。うつ病の場合、この5つの欲動が障害される事が多いです。
ストレス障害
ストレス障害ではその原因であるストレッサーの種類にかかわらず、出現する症状はその程度・強度・期間に差異こそあれ、基本的には同様の症状が出現します。
ただし健康者と比較して別の精神疾患を合併している場合には、その出現様式や対応に違いが生じます。
うつ病患者の場合には極めてストレス耐性が弱くなります。うつ病では患者の多くは「このまま良くならないのでは?」と強い不安と恐怖心を抱えている場合が多く、そのことが心理的に強いストレスとなり得えます。
特に病状が長期遷延化すると、長期間のストレスにさらされる事になります。
うつ病患に「頑張れ等の励ましの言葉は禁忌」との格言は「うつ病患者に過度なストレスをかけるな」という言葉に置き換えることが出来ます。
うつ病患者において「不安焦燥・イライラ感・パニック発作・情動の不安定性」等のストレス症状と共通の症状は本来のうつ病症状にストレス症状が重合した結果です。
また喝酒症のような症状も一種の回避症状と判断する事が出来ます。BPD(境界性パーソナリティー障害)患者における症状の場合「自己評価の低さ」に起因した症状が主体で感情のコントロールが出来ない状態が慢性的に認められます。
一見ストレス障害の症状に酷似するが、こうした症状の対応は通常のストレス対処では困難な場合が大半です。
詳細は「ストレスのはなし」(横浜港北メンタルクリニック理事長 福間詳著・中公新書)に詳しく説明してあります。
「うつ病」と「ストレス障害」症状の認識自覚(病識)の有無
うつ病
うつ病では正確な症状の自覚をしている患者さんは少ないです。
多くは自分の能力の低さや生活上のストレスに起因した問題と原因をすり替えて解釈している場合が多いです。
この背景には「自分がうつ病である」という事実を受け入れたくないといった心理的背景がある事と「うつ病」に関する正確な知識が不足している事が関連しています。
「うつ病」という精神疾患が現実に存在し、「疾病」であることを認識することが重要になります。
ストレス障害
ストレス症状の場合は突然に発症し、しかも様々な症状が同時多発的に出現するため、症状の自覚を抱く事は困難ではありません。
実際ストレス症状の患者の多くは自己判断で「このままでは自分は潰れてしまう」との判断から受診する場合が大半になります。
しかし、あまりもの症状の多彩さから、どこまでがストレス症状でどこまでが身体的疾患であるかの判断は出来ていないのが現状です。
またストレス障害で受診した患者の一部は自分が「うつ病」に罹患したと確信している場合もあります。
こうした場合には「うつ病」と「ストレス障害」の違いに関して理解が得られるように説明することが必要と考えます。
初診時にストレス症状の多彩さと出現する可能性の高い、具体的症状を説明すると理解・納得されることが多いです。
「うつ病」と「ストレス障害」のかかりやすい年齢
うつ病
うつ病のかかりやすい年齢は30-40歳である事は知られています。
しかし若年者(10-20歳)のうつ病の発症事例はあり(小学校の高学年からの報告も)、これらの若年発症は長期化し、症状の重篤例が比較的多いです。
また遺伝性が高い事も知られています。逆に高齢者発症の場合には脳血管障害との関連に注意する必要があります。
ストレス障害
ストレス障害のかかりやすい年齢を明瞭に特定することは出来ません。
しかし就職した直後等の生活様式の急変、40歳前後の人は年代で子供も小さく家庭的な責任が重く、また業務的にも中核的年齢であるため業務責任や業務量が急増する年代でありストレスを強く受ける年代であるといえます。
また定年後は生活様式や夫婦関係のあり方が大きく急変する時期であるため、ストレス症状が出現しやすいです。
高齢者の一人暮らしではコミュニケーションが減少し、ストレス耐性は極めて弱くなります。
更に幼少時にいじめや家庭内DVを受けた体験のある者は、ストレス耐性が極めて脆弱で、慢性的にストレス症状が消長する場合が多いです。
「うつ病」と「ストレス障害」の病状を悪化させる要因
うつ病
うつ病の症状を悪化させる要因は次のようなものがあります。
1.良くなるための努力をする事
うつ病患者は運動をしたり、気晴らしに旅行等をすると良くなるといった誤った判断をしている場合が少なくありません。
うつ病では何かしらの行動を行う事は逆に疲労感につながりやすいです。
また行動で病状が悪化すると更にこんな事も出来ないのかと不安が増強することになります。
うつ病ではひたすらエネルギーの消耗は避けるべき行動が大切です。
2.うつ病の特性を知らないため「良くならないもの」と思ってしまう事
うつ病は始まりと終わりのある一定期間の脳機能障害であり、例え治療を行わなくても時間が来れば回復するものです。しかしこのことはなかなか信じられないものです。
服薬の効用が乏しい場合やうつ病相が1年以上の長期に及ぶようなケースでは回復という希望が消失して、回復する事が信じられないと更に不安感が発生し、ストレスが加わる事になり病状の泥沼化につながります。
3.服薬の中断
抗うつ薬の効果の期待値はおよそ80%です。早いケースでは3-5日でほぼ寛解状態に至る場合もあります。
病状が早期に回復すると患者は完治したものと勘違いをします。
寛解状態に至った後も、最低3ヶ月間は服薬の継続が絶対条件です。
服薬を中断して再発すると同処方を行っても効果が減じる場合が少なくないです。
4.改善傾向が見られた時の当初の過活動
前述したようにうつ病の回復期に病状が日によって大きく変動する場合があります。
多くは調子が良くなるとうれしくなり、どうしても過活動になりやすいですが、この時期の行動の自重はとても重要です。
5.飲酒
うつ病で飲酒に走るケースは少なくないです。飲酒してほろ酔い気分になると気分が高揚して一見病状が緩和される事があるからです。
しかしアルコールの薬理特性としてアルコールが代謝され体内から抜ける過程でアルコールには「抑うつ作用」があります。
その結果アルコールが抜ける早朝に、早朝覚醒や気分の著しい落ち込みが生じる事になります。
うつ症状自体が早朝時の気分不良が特徴である事に加え、アルコールの抑うつ作用が重なる事になり、病状は著しく悪化します。
6.気圧の変動
多くのうつ病患者が口にするのは大雨や台風の接近等、気圧の低下がうつ症状を悪化させる場合があります。
ストレス障害
ストレス障害の症状を悪化させる要因には次のようなものがあります。
1.だらだら、ゴロゴロすること 二度寝や昼寝
うつ病と違いストレス障害では、くつろいだりリラックスをすると病状が悪化します。
ストレス障害ではその状態の特性として刺激を避けたいという無意識の心理機序が発生するものです。その結果、何をするのもおっくうになり休日や自由な時間をゴロゴロとして過ごしやすくなります。
こうした行動をとると、逆に侵入症状としてのフラッシュバックが生じやすくネガティブな考えや不安が誘発されることになります。
刺激を避けようとするほど脳は興奮状態となりやすくなり、また頑張ろうという闘争心が低下しストレスに立ち向かえなくなります。
ストレス症状は特定のマイナス思考をしている時間の長さに比例して出現するものです。ゴロゴロしているとその間継続的にマイナス思考が連鎖することとなります。
2.反省と後悔、自己否定
多くのストレス障害の患者は反省と後悔の連続となりやすいです。その結果自己否定感につながることになります。
自己否定はストレスで最大のストレスです。「思考の方向が後ろ向きでは新たな打開策が見いだせない」こうした思考様式ではストレスは脳内で爆発的に増幅されます。
3.気のゆるみ
ストレスが強い環境では常に適度な緊張感を保つことが重要です。気持ちが緩むとストレス反応が生じやすいです。
親しい身内が亡くなった後の喪失反応を例にとってみると、49日の法要が終了するまでの期間は何かと多忙で緊張感が保持されます。
しかし法要が終了した途端に気が緩み(一種の荷下ろし状態)症状が噴出することがあります。
4.過度の飲酒
ストレス障害では適度の飲酒は確実に症状が緩和されるため飲酒に走るものが少なくないです。
アルコールは適量で脳の鎮静作用があり、脳の興奮が一時的に(30分間程度)抑制される事が原因です。
しかし過度の飲酒や高濃度のアルコールを飲酒すると「自己抑制」機能が解除されるため、不安や怒りが爆発して事故につながることがあるので注意が必要です。
5.更なるストレスの重合
一旦ストレス症状が発症すると、確実に打たれ弱くなります。
今までだったら平気なマイナス刺激にも過敏に反応するようになり症状の悪化のきっかけとなりやすいです。
「うつ病」と「ストレス障害」簡単な識別方法
「うつ病」と「ストレス障害」について簡単な識別方法を掲載してあります。
うつ病
・便通:便秘
・食思低下 ○(全般性)
・嘔気 ×
・肩こり △
・起床不良 ○
・夕刻に楽 ○
・性欲低下 ○
・頭痛 △
・イライラ感 △
・他罰性 ×
・涙もろさ △
・記憶の欠落 ×
・表情の弛緩 ○
・動作の緩慢さ○
・希死念慮 △
・フラッシュバック ×
・動作の緩慢さ ○
・耳鳴り ×
・物忘れ △
・健忘 ×
・微熱 ×
・飲酒で楽になる △(翌朝気分が低下)
ストレス障害
・便通:下痢
・食思低下 ○(濃厚な物が苦手)
・嘔気 ○
・肩こり ○
・起床不良 ×
・夕刻に楽 ×
・性欲低下 ×
・頭痛 ○
・イライラ感 ○
・他罰性 ○
・涙もろさ ○(特に女性)
・記憶の欠落 △
・表情の弛緩 ×(過敏性が強い)
・動作の緩慢さ×
・希死念慮 △
・フラッシュバック ○
・動作の緩慢さ ×(落ち着きがない)
・耳鳴り ○
・物忘れ ○
・健忘 △
・微熱 ○(36.5~37.0度)
・飲酒で楽になる ○
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